高等遊民前夜

日記と考え事のログ

PLAN75を観ました

 火曜日。お盆休みは続く。同居人は普通に仕事だから日中は私の自由時間だ。ここ一年はあまり自分の時間がない生活をしていたから、いきなりまとまった一人の時間が目の前に現れると、真っ白な紙を渡され「自由に描いていいよ」と言われたみたいで戸惑い、結局そんなに有意義に時間を使えなかったりする。1時間とか30分とか、隙間時間を使うことばかりに長けてしまって情けなくなる。(何もしない、というのも有意義な時間の使い方とは思いつつ、なかなか割り切れないでいる。)今日は有意義に過ごしたいなと思う。

 朝の水やり。ステファニア・ピエレイが発芽した。ステファニアはタイやマレーシア原産の塊根植物。塊根というより芋って感じ。丸い葉が愛らしい。

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 その後は眼科へ。コンタクトレンズが無くなりそうだから、そのための受診をするためだ。一旦自宅へ帰って適当に昼食にした後、バスと電車で伏見ミリオン座へ向かう。天気予報は雨だったから折り畳み傘を持ってきたのにバチバチの猛暑だ。どこをどう間違ったら雨が降るんだというくらい天気が良くて憎い。なんなら普通に暑いし、でもちゃんと雨の気配があるのか湿気が凄まじい。歩いて5分で背中まで汗でベタベタになっているのがわかった。

 映画は「PLAN75」を観た。「75歳以上の高齢者はPLAN75に申し込み自分のタイミングで死を選ぶことができる」という制度が導入されて数年の日本を描いた映画。


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 SF映画でありがちな設定だけど、この映画のすごいところはそのリアルさだ。「PLAN75」を紹介するテレビCM、制度申請者のコメント、役所の担当者とのやりとり等、どこまでもリアルで「日本ではこんなふうにやりかねないな」と自然と思わされた。しかも制度の内容として、「PLAN75に申請すれば10万円の手当がもらえる」「合同火葬にすれば別途火葬やお墓の負担もない」なんていう一見みみっちいインセンティブ安楽死を進める感じもいかにもありそうで恐ろしい。(マイナンバー申請でマイナポイントもらえる感じと同じ匂いがするのだ。)
 PLAN75の制度はよく作り込まれていて、他にも、申請者は死ぬことへの不安を感じたらいつでも安楽死を止めることができるし、専属のオペレーターに電話し、話を聞いてもらえる。(しかしオペレーターは、高齢者が安楽死を躊躇わないよう誘導しろと教育されている。)安楽死後、所持品や自宅にある物品は提携する中古買取業社に回され、全く無駄がないという利点も強調されていた。(それ以外にも、遺体が動物性産業廃棄物として有効活用されることが示唆されていた。)冷静に考えれば自身の財産すべてが国に取られていることに変わりないのだが、そういった制度面が「いいこと」として描かれ、映画中のCMやパンフレット内で明るいトーンで説明されている。そこに恐ろしさがあった。

 PLAN75という制度自体は、ある意味では人を救う制度かもしれない。作中では、申請するにあたり健康診断や職業等で審査がなく、誰でも希望すれば安楽死をできる。しかも10万円が貰えて、自由に使っていい。病気に苦しんでいる人や真に安楽死を求めている人には願ったり叶ったりなんだと思う。でも作中ではそういうふうには描かれていない。この映画は、行き場がなくなってPLAN75を申請するように仕向ける日本社会自体を描いてるのだと思う。それが主人公の高齢女性を追うことで主に描写されている。78歳の彼女は天涯孤独で子がおらず、ホテルの清掃員をして生計を立てている。同僚の高齢女性が勤務中に倒れたことで、高齢者の従業員が全員解雇になる。次の仕事にありつけず、工事現場の誘導員をすることになる裏では、アパートのたち退き期日が迫っている。転居先を探そうにも、高齢であることと定職がないことで入居できる物件もない。藁にも縋る思いで生活保護を申請しようと窓口へ行くと、「本日分の受付終了」となっている。生きることに前向きなのにも関わらず、行く先々で心を折られる出来事にぶつかってしまう。そうして前々から気にしていたPLAN75に申し込んでしまうのだった。主人公は健康でハキハキ喋り、よく働いていて、働く意欲がある人物だったか、社会の方が彼女に安楽死を選ばせるように仕向けているのだ。

 映画には他にも中心的な人物がいる。娘の難病を治療するために日本に出稼ぎで来て介護士をしているフィリピン人女性。この女性はより収入のいい仕事を求めて、PLAN75により死を遂げた人の遺体が身につけている所持品を回収して仕分けをする仕事をするようになる。死者と関わる仕事が忌避されるものであり、外国人労働者の安価な労働力で賄われているという現代の縮図のような構図もありハッとさせられた。(PLAN75のオペレーターも派遣労働者のように描かれていた。)人の生死を支えているのが非正規労働者なのはある意味おそらく現代もそうなのだろう。公務員の若者は心優しくPLAN75の説明をしたり炊き出しを行ったりしながら冷酷なシステムを運用していくこととなる。自身の叔父がPLAN75に申請したことを知り、この制度の欺瞞に気づき始める。真面目に生きて、それぞれきちんと働いている人たちが奇妙にPLAN75を支える労働力として機能して、生きようとしている人々を安楽死に導こうとするグロテスクな仕組みが巧妙に描かれていた。いい映画だった。

 帰宅後は適当に素麺を食べて本を読んだりゲームしたりして思い思いに過ごした。