高等遊民前夜

日記と考え事のログ

永井玲衣「水中の哲学者たち」を読みました

 「水中の哲学者たち」は、身近な哲学についてのエッセイ。著者はあらゆる場所で哲学対話をおこなっている研究者で、このエッセイはその哲学対話を通して考えたあれこれや、著者が哲学を学ぶに至ったルーツ的な話などがユーモアを交えながら書かれていて、とても楽しく読んだ。
 「哲学対話」は、参加者が事前に決められたテーマについて意見を述べ合う対話で、円滑に進めるためにルールをいくつか聞けているようだ。自分の意見を言葉で説明する、勝ち負けを競わないなど。これを小中学校や、まちの施設や、イベントなどでやっているようだ。その時々によって参加者の年代や所属などの属性はさまざまだが、子どもからはっとさせられる意見を聞いた時の驚きや、他者と向き合うことへのためらいや恐怖など、読者の生活にもつうづるような体験が書かれている。哲学対話自体も興味深いけれど、エッセイを通して書かれている対話することそのものへの楽しさや難しさについていろいろ考えさせられた。対話、難しい。タイトルの「水中」というのは、難しい哲学という問いについてかんがえているとき、対話は水中にいるようなものであるという事らしい。水中に潜るのは苦しい。でも、いま目の前にいる人たちとだけでなく、昔からが分からない、わからないと考えていた哲学者たちとも繋がれる営為だという。


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 著者は、哲学者の有名な言葉を引用するのはもちろん、詩や、短歌や、お笑い芸人のネタまで引用して、とても親しみやすく話を進めてくれている。哲学を身近に感じない人に寄り添いたいという意志を強く感じたような気がした。

 これは余談だけれど、ちらほら著者の学生時代のエピソードが語られるのだが、それらがあまりいい思い出として語られておらず、学校生活の中で感じる違和感が前景化していたことも興味深く読んだ。疑問に思ったことを「そういうものだ」とたしなめて思考停止させる、正解ありきの教育を著者も疑問視している。私も学校教育にはあまりいい思い出はない。そしておそらく、同じように思っているひとも多いんじゃないかと思う。特にそういう経験のある人には刺さるかもしれないです。